JHS
Origin / 由来・語源
JHS・IHSはいずれも、ギリシャ語で書かれたイエスの名前の最初の3文字(イオタ・エータ・シグマ)に由来する紋章です。ギリシャ語のエータはラテン文字のHと形が近いためそのままHに、シグマは発音の近いSに、あるいは当時よく使われた丸い異体字(ルネイト・シグマ)の形がCに似ていたことからCに転写され、「IHS」と「IHC」という二つの表記が生まれました。
さらにラテン文字の世界では、IとJはもともと同じ文字の異なる書き方(語頭などで用いられる装飾的な形がJ)にすぎず、両者が別の文字として区別されるようになったのは17世紀頃のことです。そのためIHS・IHCと同じ紋章が、JHS・JHCという表記でも並行して用いられるようになりました。中世後期から近世にかけての西欧美術ではJHSの表記もごく一般的で、優劣や意味の違いはありません。
Meaning / 聖書的・神学的な意味
JHS(IHS)は特定の場面を描くのではなく、イエスの名そのものを掲げる紋章です。その背景には、「神はキリストを高く上げて、あらゆる名にまさる名をお与えになった。それは、イエスの名によって、天上のもの、地上のもの、地下のものがすべて膝をかがめ」と語るフィリピの信徒への手紙2章9〜10節の言葉があります。名そのものへの畏敬という発想は、聖なる名を省略して書き記す初代教会の慣習(ノミナ・サクラ)にも通じています。
この紋章が広く知られるようになったのは15世紀、フランシスコ会の説教者シエナの聖ベルナルディーノが、説教の締めくくりに後光に囲まれたIHSの図像を掲げ、人々に聖名イエスへの信心を説いたことがきっかけです。その後16世紀には、イグナチオ・デ・ロヨラがこの紋章をイエズス会の印章として正式に採用し、以来IHSはイエズス会を象徴する紋章として広く知られるようになりました。
History / 歴史的背景
聖なる名を省略して記す習慣は3〜4世紀の初代教会にすでに見られ、写本や碑文の中で「イエス」「キリスト」「神」「主」といった語がしばしば短縮形で書かれました(ノミナ・サクラ)。IC(イエス)やXC(キリスト)といった略記とともに、IHSの原型となる「イオタ・エータ・シグマ」の3文字も初期のキリスト教碑文に確認されています。
15世紀にシエナの聖ベルナルディーノがこの紋章による説教を広めた際には、新しい信心を煽っているとして教皇マルティヌス5世のもとに召喚される一幕もありましたが、後に疑いは晴れています。その後この紋章は西方教会の美術に豊かに取り入れられ、16世紀にイエズス会の紋章として採用されて以降は、教会建築の正面装飾からロザリオ、メダイに至るまで、今日も広く用いられ続けています。
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