シンボル
INRI

INRI

INRI(十字架上の罪状書き)
Iesus Nazarenus, Rex Iudaeorum(羅)
◆ 別称 罪状書き、titulus(ティトゥルス)
◇ 起源時代 1世紀の十字架刑の記述に由来
◆ 関連聖句 ヨハネ19:19-22 ほか
◇ 意味 「ナザレのイエス、ユダヤ人の王」の頭文字
◆ 図像的特徴
十字架上部の小さな板 クルシフィックスの定番要素 3言語表記(ヘブライ・ラテン・ギリシャ)
※INRIは、ラテン語「イエスス・ナザレヌス・レックス・ユダエオールム(ナザレのイエス、ユダヤ人の王)」の頭文字です。総督ピラトが十字架の上部に掲げさせた罪状書きに由来し、ほとんどのクルシフィックス(磔刑像)に描かれる定番の要素です。
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Origin / 由来・語源

INRIの由来は、イエスの十字架刑そのものの記述にあります。ヨハネによる福音書19章によれば、総督ピラトは十字架の上部に「ナザレのイエス、ユダヤ人の王」という罪状書きを掲げさせました。この板は当時「ティトゥルス」と呼ばれ、処刑される者の罪状を公示する目的でローマの刑罰に用いられていたものです。ヨハネ福音書は、この罪状書きがヘブライ語、ラテン語、ギリシャ語の3言語で書かれていたと伝えており、INRIはこのうちラテン語表記の頭文字、Iesus Nazarenus, Rex Iudaeorumから取られています。

この罪状書きの正確な文言は、四つの福音書の間でわずかに異なっています(マタイ27章、マルコ15章、ルカ23章、ヨハネ19章)。しかし西方教会の伝統では、最も詳しい記述を残すヨハネ福音書のラテン語表記をもとにした「INRI」が、クルシフィックスに刻む定型として定着しました。

Meaning / 聖書的・神学的な意味

ピラトがこの罪状書きを掲げさせた意図は、ユダヤ人指導者たちへの当てつけ、あるいはローマへの反逆者への見せしめだったと考えられています。ヨハネ福音書には、祭司長たちが「『ユダヤ人の王』ではなく、『自分はユダヤ人の王と言った』と書いてほしい」と抗議した場面が記されており、ピラトはこれを拒み、「わたしが書いたものは、書いたままにしておけ」と答えたとされています。

茨の冠と同じく、ここにも大きな逆説があります。あざけりや政治的な意図から掲げられた「王」という言葉が、キリスト教の伝統においては、図らずも真実を語る言葉として読み替えられてきました。十字架上のイエスを「王」と呼ぶこの罪状書きは、力による王権ではなく、十字架の死をもって示された、まったく異なる王のあり方を告げ知らせるものとして理解されています。

History / 歴史的背景

INRIという4文字の頭字語は、中世の西方教会美術の中で定型化し、以後クルシフィックスの上部に添えられる小さな板として、ほぼ例外なく描かれるようになりました。地域によっては、ラテン語のINRIに代えて、その土地の言語による頭文字が用いられることもあります。

今日、教会や家庭に飾られる十字架像のほとんどに、この小さな4文字が刻まれています。ふだんはあまり注目されることのない細部ですが、そこには十字架刑の歴史的な記録と、それを信仰の中心的な出来事として読み替えてきた教会の伝統が、静かに凝縮されています。

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