十字架

聖ブリジッドの十字架

イグサを編んで作る、アイルランドの聖女の十字架
St. Brigid's Cross(英)/ Cros Bhríde(アイルランド語)/ Croix de Sainte-Brigide(仏)
聖ブリジッドの十字架
※ イグサ(藺草)や麦わらを編んで作る、小さな十字架。アイルランドの聖女ブリジッドの名を冠し、キリスト教以前からこの地にあった信仰と、キリスト教とが分かちがたく重なり合った、アイルランドならではの十字架です。
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Origin / 由来・語源

聖ブリジッドの十字架は、イグサや麦わらを編んで作る小さな十字架で、毎年2月1日、聖ブリジッドの祝日に新しく編み直す習わしがあります。形にはいくつかの種類があり、最も古い記録に残る形は単純なラテン十字やギリシャ十字でしたが、今日最もよく知られているのは、中央に菱形(ロゼンジ)の編み目があり、そこから四本の腕が放射状に伸びる形です。

この十字架の名の由来である聖ブリジッド(ブリギッド)は、聖パトリック、聖コルンバとともにアイルランドの三大守護聖人に数えられる、アイルランド唯一の女性の守護聖人です。450年頃に生まれたとされますが、彼女自身が書き残したものはなく、今日語られる生涯の多くは、彼女の死後およそ200年経ってから修道士コギトススが著した聖人伝に基づいています。伝承によれば、父デュブタックは異教の族長で、母ブロッカは聖パトリック自身の手で洗礼を受けた奴隷の女性でした。ブリジッドはキルデアに、修道士と修道女が共に暮らす二重修道院を創設し、隠修士コンレスを招いて共同で治めさせ、さらに彩飾写本や金工を教える美術学校も設けました。ここで作られた「キルデアの書」は、中世の年代記作者ギラルドゥス・カンブレンシスに「人間業とは思えぬ、天使の手による仕事」と評されましたが、その写本は現在失われています。

Meaning / 聖書的・神学的な意味

この十字架にまつわる最も広く語られる物語は、死の床にあった異教の族長(伝承によっては彼女自身の父)のもとにブリジッドが呼ばれた時のことです。族長は錯乱状態にあり、まともに話を聞かせることもできない様子でした。ブリジッドはその枕元に座り、床に敷かれていたイグサを一束手に取ると、それを編んで十字架を作りながら、静かにキリストの受難について語り始めます。編み進む手の動きと語りかける声が、次第に彼の心を落ち着かせ、やがて族長は自ら洗礼を望み、キリスト教徒として穏やかに息を引き取ったと伝えられています。もう一つ、あまり知られていない伝承では、ブリジッドが何者かから毒入りの飲み物を渡された際、この十字架を編んで毒を無力化したとも語られます。いずれの物語も、この十字架を抽象的な象徴としてではなく、対話と寄り添いという具体的な行為から生まれたものとして描いている点が共通しています。

History / 歴史的背景

ブリジッドの物語は、アイルランドの信仰史における異教とキリスト教の重なり合いを、最もよく示す例の一つとしてしばしば語られます。キリスト教が伝わるはるか以前から、ケルト神話の神々トゥアハ・デ・ダナーンの一柱として、詩歌・癒し・鍛冶を司る女神ブリジッドが崇められており、その祭りインボルグは、冬至と春分のちょうど中間にあたる2月1日に、新しい命の始まりと大地の目覚めを祝う日として、すでに祝われていました。イグサを編んだ十字架そのものにも、キリスト教とのつながりが生まれる以前の起源があります。三本の腕を持つ、これによく似た魔除けの編み細工が、火除けの護符として家や家畜小屋の戸口に掛けられる異教の習わしとして、すでに存在していたのです。学者の中には、この回転するような編み目の形を、青銅器時代のケルト美術に見られる「太陽の車輪」の意匠にまで遡らせ、めぐる季節そのものを表す図像と結びつける説もあります。

アイルランドの初期の宣教者たちは、こうした古い信仰を切り捨てるのではなく、意図的に重ね合わせていったようです。異教の祭りインボルグは聖ブリジッドの祝日に、三本腕の魔除けは四本腕の十字架へと、静かに移し替えられていきました。今日でもこの習わしは変わらず息づいており、毎年2月1日には新しいイグサの十字架が編まれ、家や納屋の入り口に掛けられて、聖女の祝福と、火難からの守りとを一年間祈ります。この伝統は海を越え、ボストンからブリスベンまで、世界中のアイルランド系コミュニティに今も受け継がれています。

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