十字架

マルタ十字

聖ヨハネ騎士修道会に由来する、八つの先端を持つ十字架
Maltese Cross(英)/ Croix de Malte(仏)/ Cross of St. John / Cross of Amalfi
マルタ十字
※ 四つの矢羽根状の腕が中心で交わり、合わせて八つの先端を持つ十字。マルタ騎士団(聖ヨハネ騎士修道会)の紋章として広く知られていますが、実はマルタに定着するよりずっと前、南イタリアの海洋都市アマルフィに遡る由来を持っています。
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Origin / 由来・語源

マルタ十字は、V字形の四つの腕が中心で交わり、全体として八つの先端を形作る十字です。この八端の意匠は、ビザンティン世界に起源を持つとされ、11世紀には南イタリアの海洋都市国家アマルフィで、貨幣にこの十字を刻んでいた記録が残っています。エルサレムに巡礼者のための施療院を築いたのは、まさにこのアマルフィの商人たちでした。洗礼者聖ヨハネに捧げられたこの施療院を、フラ・ジェラール(福者ジェラルド)に率いられた修道士たちが運営し、これが後の聖ヨハネ騎士修道会(マルタ騎士団)の母体となります。八端十字が、修道士たちのあいだで自然に自分たちのしるしとなっていったのも、こうした経緯があってのことでした。

Meaning / 聖書的・神学的な意味

八つの先端が何を表すかについて、騎士団自身は複数の意味を重ねてきました。最もよく語られるのは、マタイによる福音書5章に記される「山上の説教」の八つの真福(幸いなるかな、で始まる八つの祝福の言葉)に対応するという説明です。同時に、騎士団を構成した八つの「言語圏(ラング)」――プロヴァンス、オーヴェルニュ、フランス、イタリア、アラゴン、ドイツ、イングランド、カスティーリャ――を表すとも言われ、四つの腕は思慮・正義・節制・剛毅という四枢要徳に結びつけて説明されることもあります。騎士団の会則そのものも、忠誠・敬虔・誠実・勇敢・栄誉・死を恐れぬ心・貧者と病者への奉仕・教会への敬意という、騎士が体現すべき八つの徳として八端を読み解いてきました。一つの正解を定めるというより、幾重にも意味を重ねながら受け継がれてきた図像だと言えるでしょう。

History / 歴史的背景

当初は病者の看護にあたる施療修道会だった聖ヨハネ騎士修道会は、11世紀後半以降、聖地への道が危険を増す中で、巡礼者を武装して護衛する役割を担うようになり、看護と戦闘の両方を担う軍事修道会へと性格を変えていきます。1291年に十字軍国家が最終的に失われると、騎士団は1310年に地中海のロードス島へ、そして1530年には神聖ローマ皇帝カール5世からマルタ島を与えられて拠点を移しました。「マルタ十字」という呼び名は、この移住の後に定着したもので、それ以前は長く「聖ヨハネ十字」と呼ばれていました。1489年に定められた騎士団の会則には、すでに「八つの先端を持つ白い十字を身につけること」が明記されています。もっとも、今日よく知られる、先端が鋭く尖った矢羽根状のデザインが完成するのは15〜16世紀にかけてのことで、それ以前はもう少し丸みを帯びた形が使われていました。

1798年、ナポレオンによってマルタ島を追われた後も、騎士団は消滅しませんでした。現在も「マルタ騎士団(正式名称:エルサレム・ロードス・マルタ聖ヨハネ主権軍事修道会)」としてローマに本部を置き、独自の旅券や国連オブザーバーの資格を持つ主権実体として、世界各地で医療・人道支援活動を続けています。八端十字は、こうした看護と奉仕の歴史を今に伝える紋章であると同時に、世界各地の消防組織の紋章にもその名を借りられています。ただし興味深いことに、実際に消防章として使われている形の多くは、鋭い矢羽根状のマルタ十字そのものではなく、先端が広がったクロス・パテ(パテ十字)に近い形であることが多く、消防関係者の守護聖人である聖フロリアンにちなむ「フロリアン十字」(先端の間が丸みを帯びたアーチ状)とも、しばしば区別なく呼ばれているのが実情です。「傷ついた人を助ける」というマルタ十字の物語と権威が、形そのものよりも先に消防の世界へ受け継がれていった、と言えるかもしれません。

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