十字架

正教十字(八端十字架)

三本の横棒に受難の物語を刻む、正教会の十字架
Russian Orthodox Cross(英)/ Suppedaneum Cross / Slavonic Cross / Byzantine Cross
正教十字(八端十字架)
※ 縦棒に三本の横棒(上から罪状書き・両腕・足台)が交わる十字。すべての端を数えると八つになることから「八端十字架」とも呼ばれ、正教会、なかでもロシア正教会を象徴する十字架として知られています。
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Origin / 由来・語源

正教十字は、縦棒に三本の横棒を組み合わせた十字です。一番上の短い横棒はピラトが掲げさせた罪状書き(INRI)を、中央の長い横棒はキリストの両腕が広げられた本来の横木を、そして一番下の短く傾いた横棒は、磔刑にされた者の足を支えた足台(スペダネウム)を表します。すべての線の端を数えると八つになることから、「八端十字架」という呼び名も広く使われています。

この三本線の様式は、正教会とカトリック教会がまだ分かれていなかった6世紀のビザンティン美術にすでに現れており、東西教会が分裂する1054年より、はるかに古くから存在していました。ルーシ(現在のロシア・ウクライナ・ベラルーシの起源となった地域)は988年、キエフ大公ウラジーミルの改宗によってビザンティンからキリスト教を受け入れ、この十字の様式もその流れの中で伝わっていきます。1472年、モスクワ大公イヴァン3世が、最後のビザンティン皇帝の姪ソフィア・パレオロギナと結婚したことで、モスクワは「ビザンティン帝国の後継者」としての自意識を強め、この十字はロシアの国教会を象徴する形として、いっそう深く定着していきました。

Meaning / 聖書的・神学的な意味

三本の横棒はそれぞれ意味を担っていますが、なかでも最も特徴的で、多くを語られてきたのが一番下の「傾いた足台」です。ルカによる福音書23章には、キリストと共に十字架にかけられた二人の犯罪者が登場します。外典の伝承では、キリストを罵った者はゲスタス、悔い改めて赦しを乞うた者はディスマスと呼ばれ、キリストは悔い改めた者に「あなたは今日わたしと共に楽園にいる」と約束しました。傾いた足台は、この一方が赦され、もう一方が裁かれたという物語を、上がる側と下がる側とで視覚的に表現したものとされ、しばしば「正義の天秤」にもたとえられます。マタイによる福音書27章にはキリストの死の瞬間に地震が起きたと記されており、この足台の傾きを、その地震によって実際にずれたものとして読む伝承も一部に残っています。

興味深いことに、この足台の傾きはロシア・スラブ系の伝統に特徴的なもので、ギリシャ正教会の伝統では、同じ下段の横棒がまっすぐ水平に描かれることが一般的です。同じ正教会の中でも、文化的背景によって図像の細部に違いが生まれている一例と言えます。

History / 歴史的背景

オスマン帝国の支配下に置かれた東方正教会の各地では、公の礼拝が制限される中、この三本線の十字が信仰と民族の記憶をひそかに守り続けるしるしとなりました。家庭の祭壇や衣服、墓石に刻まれたこの十字は、公然と教会を掲げられない時代にあっても、正教徒としての結びつきを示す静かな抵抗の証しであり続けたのです。

ロシア正教会の聖堂の屋根に掲げられる十字架には、さらにもう一つ、根強い誤解を招いてきた要素があります。十字の根元に添えられる、三日月のような形(ツァータ)です。「イスラム勢力への勝利を示すもの」という俗説が今もよく語られますが、教会側はこれを明確に否定しています。実際にはこの意匠、キリスト教とイスラム勢力の対立が生まれるよりずっと以前から存在しており、教会を「救いの方舟」に見立てる図像や、錨を思わせる古いビザンティンの意匠に由来すると考えられています。今日、この八端十字架は聖堂の丸屋根から個々の信徒が身につけるペンダントに至るまで、ロシア正教会を一目で示す、最も特徴的な十字架であり続けています。

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